予備日：セロ弾きのゴン太
「昨日は、二人とも部屋に入ったとたんにイビキかきはじめてさぁ、それもイビキがハモってるもんだから笑っちゃたよ」
朝のお味噌汁をすすりながら、ノリコさんが言いました。は、はずかしい。だけど、笑える、自分で聞いてみたい。
昨夜は、夕食をいただいたら、すぐに眠くなって私と浜ちゃんは、さっさと床に入ってしまったのです。だらだらとすごしていたつもりだったのですが、けっこう疲れていたみたいです。
今日は、十勝ツアー本当の最終日、大樹のオイカマナイトーでカヌーです。
オイカマナイトーは、”生花苗沼”と書きます。
もともと海だったのが、少しずつ海から離れていった沼です。今はまだ海とつながっているので、水をなめるとわずかに塩気があります。
さっさと朝ごはんをすまして、いそいそと準備して浜ちゃん号で大樹に向かいました。
芽室組で、参加するのは私たちと、旭山仙人ナガイさんと、マンション仙人ミナガワさんです。
大樹組参加者は、大樹仙人クロカワさん、フジイ一家、コカゴ夫妻、フナヨ＆犬のゴン太、アリオカさん、ネイティブはアリオカさんとゴン太だけです。
用意されたカヌーは、フジイさんのファルトボート・ベガ３７０、それとクロカワさんのインフレータブル・グモテックス、私のファルトボート・ボイジャー３６０、それとベッポさんのオープンデッキ・カヌーを借りてきました。
メニューは焼肉です。さすが牛の町、大樹町、牛肉の焼肉です。ありがたいありがたい。でもそのかわり会費は高くなります。
オイカマナイトーは、ジェットスキーの艇庫ができてしまったので、はっきり言ってうるさいです。
うるささに耐えられず、私たちはこれ以降はオイカマナイトーには行っていません。
目の前を傍若無人に走り回るジェットスキーに向かって、ゴン太がワンワンと吠えまくっています。もともと吠え犬のゴン太が、いつもよりよけいに吠えています。よし！やっておしまい！
しかし、ゴン太は水が大嫌いなんです。情けない奴です。
水に飛び込んでジェットスキーに襲いかかるなんて芸当はできません。
そんなゴン太を、母であり妻でもあるフナヨちゃんは、たくましいカヌー犬にしたいらしいのですが、さてさて。
ものの本によると、犬はもともと水遊びは好きなので、水を嫌がる犬はタライなどに水を張り、その中でボール遊びをさせるところから少しずつ、水に慣れさせるといいそうです。
って、ちょっと！
ゴン太のジジであり養父でもあるクロカワさんが、嫌がるゴン太をむんずとつかみ、フナヨちゃんと浜ちゃんの乗ったオープンデッキ・カヌーに放り込みました。
ゴン太はバウに前足をのせて硬直、そのまま、二人と一匹をのせたオープンデッキ・カヌーは岸から離れていきました。
カヌーが中州に乗り上げたら、ゴン太は大喜びで飛び降りました。
そこで、浜ちゃんは静かにリバース・ストローク
中州に上がって喜び回っているゴン太がハッと気づくと、オープンデッキ・カヌーはすでに中州から離れて置いてきぼりをくらっていました。
「ゴン太、ばいばーい」
フナヨちゃんは、手を振ってゴン太をからかっています。ひどい飼い主です。
フャンフャン（待って、待って、おいていかないで！）と、泣きながらゴン太は水際を走りました。
水深は浅いのですが、ゴン太は短足なので、本人はかなり深く感じているはずです。
ゴン太は、水の恐怖と戦いながら、バシャバシャと走って母の乗ったカヌーを追いかけますが、ゴン太の背よりも深いところに行ってしまいました。
さすがにゴン太の泣き声が悲痛になってきたのを感じたフナヨ＆浜ちゃんは、いそいそとカヌーをゴン太のそばに寄せると、下半身泥だらけのゴン太が大ジャンプでカヌーに飛び乗ってきました。
そして、ブルブルをしたものだからフナヨ＆浜ちゃんは、頭から泥をあびてしまったのです。
カヌーに戻ると、またゴン太はバウのところで硬直していましたが、キャンプ地が近づいてやっと生気が戻ってきました。
ところが、
（もう、もう着くぞ、また大ジャンプで岸に上がるんだ！）
と、ゴン太が、カヌーが着岸するのを今か今かと見がまえているところに立ちふさがるジジの影。
「ほーら、もう一回、行ってこい」
と、クロカワさんは、着岸直前のカヌーを押して岸から離してしまいました。
（あららら）ゴン太は目がテンになってしまいました。
クロカワさんは嬉々として、それを何回も繰り返していました。ひどいジジです。
やっと岸に着いたゴン太は、二度とカヌーとクロカワさんに近づきませんでした。
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タイトル元ネタ
『風の又三郎』 宮沢賢治
『セロ弾きのゴーシュ』 宮沢賢治
『セロ弾きのゴーシュ』は、２０年前に、あの高畑勲監督の手で劇場アニメになっています。ガンダム・マクロスの影に隠れてしまいましたが名作です。日本テレビもジブリ製作以外の高畑・宮崎関係作品を放送してくれればいいのに。
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