童の時は、語ることも童のごとく 　　　　 思うことも童のごとく 　　　　 論ずることも童のごとくなりしが 　　　　 人となりては、童のことを捨てたり。

甲殻奇漕隊　　〜 Gunwales in The Shell 〜

　洞爺湖。
　北海道、内浦湾より北東部に位置するカルデラ湖です。
　全周52キロ、中央には４つの島があり、なかでも一番大きい島は中島と呼ばれています。
　支笏洞爺国立公園であり、緑豊かな山々に囲まれ、都市の喧騒とは無縁の静けさです。南側湖畔には温泉街があります。
　やや曇りがちの天気ですが、穏やかな６月中旬。
　洞爺村浮見堂の沖に１隻のモーターボートが浮かんでいました。
　デッキには数人の男たちが、のんびりと釣りをしたり酒を飲んだりしているようです。
　しかし、よくよく観察していると辺りを警戒しているようにうかがえます。
　｢アニキ、そろそろっすね｣
　｢そうだな陸から怪しまれていないかよく見張っていろ｣
　下っ端らしい男は双眼鏡をのぞきながら辺りを見回していました。
　このモーターボートから少し離れたあたりにカヌーのグループが中島を目指して漕いでいました。
　男はしばらくカヌーを注視していましたが、安心したのか別の方角に注意をうつしました。
　｢おっ、きたようです｣
　温泉街の方から１隻のモーターボートがやってきました。
　２隻のモーターボートはゆっくりと合流しました。
　｢よう待たせた｣
　後からきたモータボートから男が声をかけました。
　｢たいして待っていないよ。見てくれ注文どおりの品物だ｣
　デッキの板を空けると、中にはダンボール箱が何箱も積まれていました。
　男の一人がダンボールのひとつをあけました。中にはぎっしりとカニが詰っていました。
　｢信用しているよ。急いで積み込んでくれ。陸のやつらに気づかれるなよ｣
　｢わかっているよ。まさかこんなところでバイオガニの密売をしているなんてわからないだろう。あんたのホテルの客はこれを道内産のカニと思って喜んで食うことになるんだろ。まぁ道内産にはちがわねぇけどな。養殖かクローン培養の違いだけだ｣
　ダンボールの移し変えが始まったそのとき、
｢そこまでだ。全員、ゆっくりと手を上げて、動くな！！｣
｢うっ！｣
　２隻のモーターボートをシーカヤック２艇とファルトボート１艇、オープンデッキカヌー１艇が取り囲んでいました。
　見張りをしていた男がうろたえながら、
｢てめれらは、さっきのカヌー・・・いつのまに・・・｣
　オープンデッキカヌーのバウ側にいた男がモーターボートにすばやく乗り移り、
｢北海道自然食保護法違反、ならびに闇売買の現行犯で逮捕する！｣
　他の男達がおびえている中、"アニキ"と呼ばれていた男は、こんな現場に慣れているのか落ち着いた様子で、
｢これは、これは、公安Ｑ課のクドウさんじゃないですか。まあまあ、そんな怖い顔をしないで・・・。この事件が明るみにでたらあんたたちの手柄よりも、よくない噂がたって、ここの温泉街どころか道内の観光地、カニで商売されているすべての人たちが困ることになりませんか？それは北海道経済にも何らかの影響があるかと思うんですけどね｣
｢・・・｣
｢カニはそちらに引渡し、わたしらも密造から手を引きます。ホテルの方は食品衛生法かなんかで軽いお仕置きにしてもらえませんか？ねぇ｣
｢・・・ずいぶん、安く見られたもんだ・・・｣
　クドウパパ公安Ｑ課・総合隊長は、すばやく左の手首をはずしました。
　手首がはずれた腕から銃身がのぞいています。
｢な・・・義体か！｣
　クドウパパ総合隊長が構えた左腕から、電荷をおびた球体が飛び出し、次々と男たちを弾き飛ばしました。
｢公安Ｑ課に裏取引は通用しないんだよ｣


　西暦２０ＸＸ年。
　文明と自然の調和は加速度的に崩壊し、電子情報による仮想現実の氾濫と機械化された生活空間は、いやおうなしに人体の電脳化と義体化を進めてしまいました。生物の進化を無視した人体改造は、道徳心と秩序の崩壊をうながし、世界は混沌の坩堝に揺れ動いていました。
　公安Q課は、多様化する犯罪（電脳ハッカーや義体による凶悪事件等）を秘密裏に清算するための秘密組織のひとつです。
　超法規的権限を持ち、その存在は公にされず、普段は、一般のカヌークラブを装っています。その名は『ガンネルズ』
　公安Q課の創設者は、おでんが大好きで、特にがんもどきと、ごぼう巻きやツミレなどの練り物が大好物、公安Q課の機密ファイルのパスワードが『さつまあげ』というくらいの入れ込みようでした。
　そんなことから、政府内では公安Q課のことを、当初、『ガンモネリズ』と呼んでいましたが、いつの頃からかそれが『ガンネルズ』となり、そのままコードネームとカヌークラブの名称になったのです。

　洞爺湖温泉街、湖のほぼ対岸のキャンプ場には、まだ肌寒い６月というのに多くのキャンパーが詰め掛けていました。
　そのグループのひとつが、一見すると、ただのカヌー好きの集まりに見えますが・・・。
　ランクルがキャンプ場の駐車スペースに入ってきました。
｢あっ、隊長、お疲れ様です。ビールサーバーの設置は完了しています！｣
　シロクマ隊員がすでに顔を赤く染めてランクルから降りてきたクドウパパ総合隊長に声をかけました。
｢バカやろう！大きな声で『隊長！』なんていうな！周りに聞こえるだろうが！｣
｢はっ、すいません｣
｢つかれたぁ、ビールちょうだい。ビール！｣
　ランクルの助手席からクドウママ情報局長が降りてきました。メグロママ隊員がビールをアクリルグラスにそそいで２人に渡しました。
｢犯人達の処分は終わったんですか？｣
｢大急ぎで、電脳をリセットして別の記憶に入れ替えて地元警察に引き渡してきの。とりつくろうのが、たいへんだったわ｣
｢じゃじゃーん！ひかえおろう｣
　メグロパパ水上隊長が、テーブルの上に大量のゆでたカニを広げました。
｢うぉぉ、メグロさん、これどうしたんですかぁ？？？｣
　喜ぶ隊員たち。
｢おい、これ、さっきのカニじゃないのか？｣
　クドウパパ総合隊長が、カニを手に取りしみじみと眺めながら、メグロパパ水上隊長に尋ねました。すると、メグロパパ水上隊長は、
｢大丈夫ですよ。押収写真と廃棄処分の伝票があれば、どうにでもなります｣
｢さっきメールをもらって、すぐに業者サーバーにハッキングしてデータベースに小細工済みです｣
　クドウママ情報局長が、２杯目のグラスを軽くあげて答えました。
｢そういうことなら、いただいちゃうかな｣
｢いただきましょう。いただきましょう！｣
　まだ明るいうちでしたが、カニを肴にビールを飲み、隊員たちは一気に出来上がっていきました。
　宴会はそのまま暗くなっても続きました。
　公安Q課＝ガンネルズが盛り上がっている明かりが届かない暗い砂浜に、２人の男がやってきました。
｢そこのカヌーをこっそり借りて、湖の上にでよう｣
｢よし｣
　2人の男は、マキタ隊員のオープンデッキカヌーに乗り込み真っ暗な湖に漕ぎ出しました。
　カヌーを盗まれたガンネルズはというと・・・。

　ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか・・・
　踊るあほぉに、見るあほぉ、おなじあほぉなら、おどらにゃぁ、そんそん！
　ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか・・・

　まったく、気がついていないようです。
　岸と中島のほぼ中間地点まで漕いだところで、男の一人が足元に置いていたバッグから黒い容器を取り出しました。
｢このあたりでいいだろう｣
｢本当に捨ててしまうのかい？｣
｢あぁ、昼間、手入れが入ったみたいでアニキたちは捕まったらしい。証拠になるようなものは捨てちまったほうがいい｣
｢それはクローン培養にかかせない大事な薬なんだろう？｣
｢手が後ろにまわるよりもいいだろう。それ！｣
　小さな飛沫をあげて、容器は暗い水面に消えていきました。
｢よし、戻るぞ｣
｢あぁ｣
　岸に戻ろうと漕ぎ出しました。しばらくしてバウに座っていた男が一息ついて、ふと後ろを振り返ると大きな影が目の前にたちはだかっていました。
　｢おかしいなぁ。中島に近づいていないか？｣
　｢そんなことないだろう。休まんでいないで、お前も漕げよ！｣
　バウの男がそれでも、目を凝らしていると、その小山のような影がゆらりと動き出しました。
｢う、うわぁー、バケモ・・・｣
　その叫び声は水しぶきの中に消えていきました。スターンに座っていた男の姿もすでにありません。
　小山のような影は泡立つ水面下に消え、誰も乗っていないオープンデッキカヌーだけが湖面をただよっていました。
　ガンネルズは、そんなことにはまったく気づかずに宴会を続けていました。

　ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか・・・
　えぇじゃないか、えぇじゃないか、えぇじゃないか、えぇじゃないか
　ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか・・・

　曲が変わったようです。

　翌朝、テントの外の物音でマキタ隊員は目が覚めてしまいました。手元の時計を見るとまだ午前４時です。
　マキタ隊員がテントから出てみると、メグロパパ水上隊長、ホンマパパ隊員、ホンマママ隊員、ヨンク隊員（予備役）が、マキタ隊員のオープンデッキカヌーを引っ張り上げていました。
｢おはようございます。早いですね｣
｢酔っ払っいすぎて、あんまり寝ていないんだよね。それよりもマキタさんのカヌーが流されていましたよ｣
｢えっ、おかしいですね。ちゃんと岸に上げておいたはずなのに｣
｢風もなかったのにね｣
　カヌーを調べてみましたが、おかしいところはどこにもなく、そのうちそんなことも忘れて、ゆるゆるとした朝の時間がまったりと流れました。
　全員が起きて、ガンネルズ特製の鳥うどんを朝食にしていると、チバ司書長の愛犬タロウが湖に向かって、激しく吠え始めました。
　｢タロウ、うるさいぞぉ｣
　チバ司書長が、うどんをすすりつつ、タロウを叱りつけたそのとき、ドドドドォという轟音とともに水面が泡立ち、湖面から赤くゴツゴツした怪しい巨大な物体が出現しました。
｢うわぁ、なんだこりゃぁぁ！｣
｢巨大な・・・巨大な甲殻類です！｣
　ガンネルズの目の前に現れたのは巨大なカニでした。
　巨大カニは、ハサミをブンブンとふりまわしてガンネルズに襲いかかってきました。
｢うわぁ！｣
｢きゃぁぁー！｣
　シロクマ隊員とホンマママ隊員がはじきとばされました。
｢ひるむな！攻撃開始！フォワードストロークビーム一斉掃射！！｣ 　怪物の出現に慌てふためいたガンネルズですが、クドウパパ総合隊長の一喝に、いっせいに攻撃を始めました。
｢スカーリングファイヤー！｣
｢フェリーグライドダイナミック！｣
　ガンネルズの猛攻に、巨大ガニはひるみ、湖の中に消えていきました。
　クドウパパ総合隊長のもとに隊員が息を弾ませて集まりました。
｢やりましたね｣
｢うむ、だか致命傷はあたえていないようだ｣
｢あのカニはなんでしょうか？｣
｢洞爺湖に、あの種類の甲殻類は生息していないはずだ｣
　そこに、ヨンク隊員（予備役）が一歩前に出てきて、
｢ガニラだ、ガニラにちがいねぇ｣
｢また、ヨンクさんのガニラが始まった｣
　ホンマパパ隊員が冗談と思ってちゃかしましたが、ヨンク隊員（予備役）は本気です。
｢見ただろう、伝説そのままだ！｣
｢伝説って、情報源は未確認生物愛好家のホームページでしょ｣
　クドウパパ総合隊長がそのやりとりを制して、
｢とにかく、シロクマ隊員とホンマママ隊員の傷の手当てと装備の点検をするんだ。急げ！｣
｢了解！｣
　隊員がそれぞれの持ち場に散り、岸にクドウパパ総合隊長とメグロパパ水上隊長が残りました。
　メグロパパ水上隊長は、険しい顔で湖をにらむクドウパパ総合隊長に、
｢カヌー部隊を編成して、やつを追撃しましょう｣
｢それは危険だ｣
｢・・・ハサミが２対でしたよね｣
｢うん？｣
｢昨日、押収したカニの中に１杯だけ、ハサミが２対のカニが混ざっていたんです｣
｢食べたんじゃないのか？第一あの大きさはなんだ？｣
｢わかりません・・・わかりませんが、このまま野放しにはできません。新兵器もあります｣
｢・・・よし、けっして無理をするなよ｣
｢ありがとうございます｣
　カヌー部隊は、メグロパパ水上隊長、シロクマ隊員、ヨンク隊員（予備役）となりました。
｢出撃！｣ 　編隊を組んで３艇のカヤックが出撃しました。
｢見ろ！やつが浮き上がってきたぞ！｣
　巨大ガニが背中を向けて浮き上がってきました。どうやら中島を目指しているようです。
｢よし、中島の岸に追い込んで攻撃をするぞ！｣
　力強い漕ぎで、カヌー部隊は巨大ガニに追いつきました。
｢新兵器を使うぞ。光学迷彩スイッチオン！｣
　それぞれのカヤックが虹色の光に包まれました。
｢これで、こっちの動きが見えないはずだ。攻撃開始！｣
｢ダブルパドルミサイル発射！｣
｢バッグウォッシュブリザードォォ！｣
　巨大ガニを囲みながら、攻撃を開始しました。
　巨大ガニは２対のハサミを振り回して反撃してきました。
｢隊長、光学迷彩はあまり効いていないようです｣
｢たしかに七色に光っているだけだよね｣
　ハサミの攻撃をかわしながら、光学迷彩の問題点にやっと気づきました。
｢うわぁ｣
　巨大ガニの立てる波にもまれて、ヨンク隊員（予備役）がバランスをくずしました。
　そこに巨大ガニが襲いかかりました。
｢危ない！｣
　メグロパパ水上隊長は巨大ガニの前に飛び出し、振り下ろされてきたハサミをパドルで受け止めました。
｢うおりゃぁぁ｣
　巨大ガニがメグロパパ水上隊長の相手をしている隙に、シロクマ隊員が巨大ガニにミサイルをお見舞いしました。巨大ガニがひるんだところでメグロパパ水上隊長とヨンク隊員（予備役）は巨大カニから離れました。
｢シロクマ隊員、カニの注意をひいていてくれ！ヨンク隊員、波導砲の準備だ！｣
｢了解！｣
　手元のレバーを立ち上げ、力の限りに前後に動かして、空気圧を高めました。
　波導砲の準備の間、シロクマ隊員はミサイル攻撃で巨大ガニの動きを封じ込めています。
｢よし、臨界点にきた。照準セット！てぇぇ！！｣
　２艇のシーカヤックの先端から発射された衝撃波は、湖面を切り裂きながら巨大ガニの横腹に直撃しました。
　どぉっと、大波を立てて巨大ガニが倒れました。
｢やったー！｣
｢よし！｣
｢うわぁ！｣
　油断したヨンク隊員（予備役）が巨大ガニが倒れたときに起きた横波をくらって沈脱してしまいました。
　艇をＴ字型に水抜きをして、ヨンク隊員(予備役）をレスキューしていると、シロクマ隊員が中島の方を指差しました。
｢隊長、カニです｣
　巨大ガニは水面からわずかに頭の先を出して、中島に向かっていました。
｢急げ、追いかけるぞ！｣
　巨大ガニは中島に近づいたところで水面下に消えていきました。
　カヌー部隊は遅れて中島に到着しましたが、巨大ガニの姿が見えません。
　シロクマ隊員がためしに潜ってみました。
｢だめです。見つかりません｣
｢もっとよく探すんだ！｣
｢はい！｣
　しかし、巨大ガニはすっかり姿を隠してしまったようです。
｢しかたがない、一度、キャンプ地に戻ろう｣
　カヌー部隊がキャンプ地に戻ったところで、近所の蕎麦屋で手打ち蕎麦をたぐりながら作戦会議に入りました。
｢問題はあの硬い甲羅だな｣
｢えぇ、我々の武器ではダメージを与えられますが決定力がありません｣
｢これはあれだね。おびき出して岸にくぎつけしないとダメだね｣
　それまで、だまって聞いていたチバ司書長が重い口をあけました。
　チバ司書長は、公安Ｑ課の創立時のメンバーで、いくつもの難事件を解決してきたベテランですが、どの派閥にも属さない飄々然とした態度が煙たがられ、いつしか閑職にまわされてしまったのです。本人は残業がなくなったと喜んでいましたが本心かどうかわかりません。
｢何か作戦がありますか？｣
｢ないこともない｣
　チバ司書長の指示でメンバーが割り振られていきました。
｢カニはどうやっておびき出すの？｣
　メグロママ隊員が聞きました。
｢ヒモにスルメをつけて、その辺を引っ張りまわせば食いついてくるよ｣
　クドウパパ総合隊長が答えました。
　（田んぼでザリガニをつかまえるんじゃないんだから）
　と誰もが思ったのですが、
｢それが一番だね｣
　チバ司書長の一言で誰も反対することができませんでした。
　さっそく、作戦が決行されました。
　さきほどのカヌー部隊に、クドウパパ総合隊長とチバ司書長が加わり、巨大ガニのおびき寄せが始まりました。
｢きたきたぁ！｣
　驚いたことに、ものの数分で巨大ガニが現れ、カヌー部隊を追いかけ始めました。
　カヌー部隊は微妙な距離をおきながら、じわりじわりと岸に巨大ガニをおびきよせました。
｢よし、いまだ！｣
　物陰に隠れていたガンネルズが一斉に巨大ガニめがけてレスキューロープを投げつけました。
　レスキューロープは巨大ガニのツメやアシにひっかかりました。
　特殊繊維でできたレスキューロープはちょっとやそっとでは切れません。
｢そぉれ、モーターが焼ききれるまでがんばれ！｣
　ガンネルズの隊員たちは、それぞれの義体の間接という間接に埋め込まれた超伝導モーターから火花を散らしながらレスキューロープを引っ張りました。
　巨大ガニは抵抗むなしく、岸にしばりつけられました。
｢よし、とりつけ！｣
　メグロママ隊員、ホンマパパ隊員、ゲンエン隊員が足のホバーエンジンを吹かしながらジャンプして、巨大ガニにとりつきました。
　そして、手にしたスペシャルセラミックのシングルパドルをカニの甲羅の隙間に力まかせに突き立てました。
　メリメリメリメリ！
　テコの原理でカニの甲羅に隙間ができました。
｢突入！｣
　ガンネルズの全員がその隙間にもぐりこみました。
｢よし、これからが本番だ！｣
｢出張中のコンブ隊員特製の醤油をこれからぶちまける、全員、力のかぎり食らいつけ！｣
｢おぉぉ！｣
　ブシュシュシュ、日高昆布をぜいたくに使った昆布醤油がすみずみに吹き付けられました。
　ガンネルズは全身に昆布醤油をあびながらカニ肉に食らいつきました。
　ムシャムシャ、パクパク
　ムシャムシャ、パクパク
｢隊長、たいへんです｣
｢どうした｣
｢塩分の摂り過ぎで高血圧になりそうです｣
｢よし！第２弾だ。ゲンエン隊員、例のものを！｣
｢はい！｣
　昆布醤油に代わって、身体にやさしい減塩醤油がぶちまけられました。
　ムシャムシャ、パクパク
　ムシャムシャ、パクパク
｢隊長、たいへんです｣
｢どうした｣
｢プリン体が溜まって尿酸値が高くなってしまいました。このままでは通風が発症してしまいます｣
｢水分補給と適度な運動をするんだ！｣
｢はい！｣
　ムシャムシャ、パクパク
　ムシャムシャ、パクパク
｢隊長、たいへんです｣
｢どうした｣
｢クドウママ隊員が生ビールばかり飲んでいます！｣
｢うーん・・・、俺も飲む！｣
　カニ肉といっしょに生ビールの樽もどんどん空になっていきました。
｢こら！おまえらビールばっかり飲んでいないで、ちゃんとカニを食うんだ！｣
　ガンネルズのおそるべき食欲で、カニ肉がみるみるなくなっていきました。ガンネルズは消化器系まで義体化していたようです。
｢隊長あとはミソだけになりました｣
｢よし、ミソにはミソだ。お湯を用意しろ！｣
　クドウパパ総合隊長は、北海道産大豆１００％を使用して丹精込めて長期熟成した白味噌を取り出し、お湯といっしょにカニミソと混ぜ合わせました。
｢カニミソの味噌汁だ！よく味わって飲め！｣
｢おぉ！｣
　じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる
　じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる
　じゅごぉぉぉぉぉぉ！
｢・・・・・・｣
｢・・・やった｣
｢やった！｣
｢やりました。完食です！｣
　満腹の腹をさすりつつ勝利を喜びあう隊員たち。
｢よし、よくやった。とりあえず外にでて身体を洗おう、カニ臭くてたまらん｣
｢はい！｣
｢出口はどこだ？｣
｢えっ？｣
　カニの甲羅はびくともせず押しても引いても外に出ることができません。
｢シングルパドルはどうした｣
｢中に入るときに外に置いてきました｣
｢えぇぇ！｣
｢隊長、たいへんです｣
｢どうした｣
｢・・・・あの・・・トイレ・・・もう・・もう、我慢できません！｣
｢うわぁ、バカ、やめろ！｣
　ガンネルズを閉じ込めたカニの亡骸は、ぷかりぷかりと湖面を漂い始めました。
　青空が広がり、山からウグイスの鳴き声が聞こえてきました。
　洞爺湖に平和が戻ってきたのです。
　ありがとうガンネルズ、さようならガンネルズ。



※へら蟹は、ガンネルズ”期待の星”タカギさんの提供です。ごちそうさまでした。



タイトル元ネタ
『GHOST IN THE SHELL　攻殻機動隊』
　原作：士郎正宗　監督：押井守　脚本：伊藤和典　アニメーション制作：プロダクションＩ．Ｇ
　『ターミネーター』『タイタニック』のジェームズ・キャメロンも驚いた。香港･上海をイメージした某国の都市を舞台に、公安９課・草薙素子が正体不明のハッカー”人形使い”を追う驚異のアキバ系アニメーション映画。
（１９９５年松竹）