旭山へ行く少年

　十勝は清水町某所にあるナガイさん＝旭山仙人の家に、人が三々五々集まってきました。ほとんどが移住者です。
　ナガイ邸は畑の中の一軒家で、どんなに騒いでもどこにも迷惑がかかりません。おまけに中は広いし、クルマをとめるところに困らないので、人が集まるときはきまって会場になってしまうのです。ありがたいありがたい。

　ナガイさんの職業は”仙人”です。？？何じゃそりゃ？と思うでしょう。
　仙人というのは、大都市圏で激務をこなしていた人たちが、十勝のゆったりとした時間の中に生活を移して、心の休息を楽しんでいる状態をいいます。
　ナガイさんの場合は、天気がよければ自分の森の中で小屋を作り、バギーを走らせ、カヌーを川や湖に持ち出して沈の練習を繰り返し、雨が降れば、２階でせっせと趣味の木工を楽しむという生活をエンジョイしています。
　ちなみに、仙人生活はのんびりしていると思いきや、経験者いわく、「仙人はいそがしい」のだそうです。
　十勝には何人か仙人が存在していますが、ボクが一番世話になっている仙人が旭山仙人のナガイさんなのです。
　ところで、この日はお盆なのですが、七夕パーティーを一昼夜にわたって行うことになっているのです。北海道の七夕は８月７日なので、１週間ずれただけでお盆と重なってしまうのです。
　かざりつけは、元幼稚園の先生だったノリコさん（浜ちゃんの奥さん）をメインに、奥様たちが数日前から準備していてくれたので、ナガイさんの居間は立派な七夕パーティー会場になっていました。ところどころに昨年のクリスマスパーティーの飾り物がまざっているのが御愛敬です。
　お客さんは到着するとまず、短冊に”お星さまにお願い”を書かされます。
｢新車がほしい｣
｢主人の仕事が早く見つかりますように｣
という、現実的なものから、
｢世界征服したい｣
｢やせがえる がんばれ一茶 ここにあり｣
というわけのわからんもんが次々と熊笹にぶらさがっていきます。
　短冊にお願いを書くことで、七夕パーティの名目がたったのであとは野となれ山となれ、大ゲーム大会に突入です。つごうのいいことに外は小雨なので、絶好のゲーム日和です。
　食い物と飲み物は差し入れが多いのでそのへんは安心してゲーム大会は進んでいきます。
　ボクはゲームというのが苦手なのでこの辺りの経過ははぶかせてもらいます。苦手というよりも、天然ボケ負けをかましたりするので、とても書く気になれない。うるうる・・・
　日がとっぷりくれ、夕飯をたっぷり食ったら、こんどは”肝だめし大会”の始まりです。


　場所はナガイ邸の前の畑を横切り、農業用水のような川に沿って少し歩きます。そこにナガイさんの森があります。家は借家ですが、森はナガイさんの地所なのです。
　ナガイさん手作りの小屋を出発点にして、真っ暗闇の森の中を道標どおりに歩いて、また小屋に戻ってくるのがルールです。
　小屋に到着する前から一人うるさいのがいます。
　十勝に移住してきたばかりの かよちゃんです。
｢きゃー、こわーい！きゃー！｣
　みんなが一斉に懐中電灯の明かりを消したりするからよけいうるさくなります。
　ずーっとしがみつかれていたポテチさんは、つかまれていたところがあざになってしまったらしい。

　肝だめしは２人１組で、順番にスタートすることになりました。くじびきでボクはノリコさんといっしょです。
　最初は川に沿って砂利道を少し歩きます。そして森の中に曲がるはずなのですが、いつまでたっても道標が現れません。
　はっきり言って、夜の森というのは恐い。
　しかも、じゃり道の右側は川があり、コンクリートの三面護岸になっているので落ちたらやばいのです。
　そのうち、先行していた組と合流してしまいました。
　どうもおかしいということで、引き返したのですが、今度はいつまでたっても小屋にたどり着きません。
　ナガイさんの森は、川と畑に囲まれているので、迷うことはないはずなのに、いつまでたっても森の中なのです。
　ぼうっと歩いていると、ガサっという音がしました。
　思わず立ち止まります。懐中電灯の明かりを音のした方に向けますが、何もいません。
｢なんだったんだろう｣
　とりあえず歩きはじめたら、またガサガサと音がします。
　みんな、今度は止らずに少し小走りになりました。
　それを追いかけるように音がします。それも右に左に交互に飛ぶように。
　気が付くと目の前に明かりが見えました。
　音はまだ追いかけてきます。
「うごぉっ、いててて」
「いちちち」
　両側の笹やぶから、浜ちゃんとナガイさんが飛び出してきました。
　脅かすためにわざわざ熊笹の中を走ったらしい。おいおい・・・
　全員そろったので、今回の肝試しの反省を話しながら、行きとは別ルートでナガイ邸に戻ります。とうもろこし畑をつっきてきたので、浜ちゃんとかよちゃんと”荒野の料理人”ミタさんがトウキビ（トウモロコシ）泥棒を始めました。が、まだ成長が遅かったので１本だけ盗ってきました。
　そのトウキビは家畜の飼料用なので人の口にはあいません。ボクも責任上（何の？）一口いただいたけどね。生で。
　ナガイ邸に戻ると、釣り師兼ギタリストのムーさんと奥さんのユリコさん、それに新得からフナミズ女史が愛犬ゴン太を連れてきていました。
　七夕パーティーはこれからが本番なのですが、これから先は断片的にしか記憶が残っていません。
　ポテチさんが、部屋の敷居を枕に寝ていました。
　朝日を拝みに行くから、５時に起床！とナガイさんが騒いでいました。
　パワーのなくなった者から順に寝場所コーナーに消えていきました。
　気が付いたら第２寝場所コーナーに寝袋で寝ていました。
　居間から、乾いた音がたえまなくします。
　気が付いたら朝になっていて、交代するように、うまかちゃんが少し寝かせてもらうと言って寝場所コーナーに消えていきました。そして、押し出されたかのように、生協に勤めるみっちゃんが起きてきて、一旦家に帰って仕事に行くと言ってます。元気だね。
　あまりに人の出入りが多かったので、正確に誰が参加していたのか定かではありません。
　


タイトル元ネタ
『宇宙島へ行く少年』　アーサー・Ｃ・クラーク
　すみません未読です。クラークと言えば『２００１年宇宙の旅』が有名ですが、他にもおもしろい作品があります。ぜひお読み下さい。
（ハヤカワ文庫）